背骨のS字の役割は、
・歩いた時の地面からの衝撃が頭までダイレクトに伝わらないように和らげる。(S字カーブがバネのようにショックを吸収する)
・腰の所で前にカーブすることによって内臓を支え適切な位置に保つ。
など身体にとってものすごく大事なのですが、人によってはこのS字の緩やかなカーブが保てなくなってしまうのです。生活習慣や遺伝的傾向でだんだんと歪んでいってしまいます。では大元の原因はどこにあるのでしょう?
背骨のS字が崩れる例として自分自身の経験をあげますが、僕は昔背骨が必要以上にまっすぐになってしまうストレートネックの状態になってしまっていました。腰から首までがまっすぐになるので周りからは「姿勢がいいね」などと言われたりしていましたが、首や頭に障害が出るので大変です。決して本当の意味で「姿勢がいい」わけではありません。整体などに行って一時的に背骨のS字が出てきてもすぐにカチカチのストレートに戻ってしまいます。背中の筋肉をつけようとしても思うようにつきません。なぜそうなってしまうのか?S字を保つための土台がしっかりしていなかったからです。その土台こそが股関節なのです。
この土台には股関節周りの様々な筋肉が関係しているのですが、ここではわかりやすく「大腰筋」という筋肉を見ていきましょう。(本当は他の筋肉との協調性が大事なのですがあくまでわかりやすく1つにしぼりました。)大腰筋は腰椎(腰の位置にある背骨)と大腿骨(太ももの骨)の上部(小転子)を繋ぐ筋肉です。身体の深部にあるインナーマッスルと呼ばれる筋肉の一つです。主な運動機能的な役割は股関節を屈曲(ももを上げる)することですが、この大腰筋が今回のテーマである背骨のS字カーブを保つのにとても大切になってくるのです。大腰筋は腸骨筋などと協力して腰椎を前に引っぱりながらカーブを作っています。同時に骨盤も前傾させていきます。
この大腰筋が弱って腰椎と大腿骨を引き合わせる力が弱くなってしまうと骨盤が後傾し腰椎もまっすぐになってしまうのです。背骨の下部にある腰椎のカーブがなくなってしまうと芋づる式にその上部の胸椎(胸の裏側の背骨)や頸椎(首の部分の背骨)も歪み、猫背やストレートネックになってしまうのです。胸椎のカーブが歪むことで肋骨の角度も変わり胸郭(胸部の骨格)が縮まって呼吸がしづらくなったり、ネガティブな精神状態になったりします。狭くなった胸郭とは逆に受け口ができた骨盤には内臓が下がり内臓下垂が常態化しポッコリと下腹が出てきます。また頸椎の歪みは頭痛や肩こりを引き起こします。
逆に大腰筋が硬くなり強い引きを保ったまま固定化されてしまうと骨盤が前傾しすぎ腰椎のカーブも必要以上にきつくなってしまい腰痛などを起こしやすくなります。その上部の胸椎のカーブも強くなり過ぎます。
このように背骨と背骨の土台となる股関節を繋ぐ筋肉の機能性が低下(筋力不足や柔軟性低下など)するだけで下から順に歪みが出て全身に様々な影響がでてくるのです。重力に対して直立な人間にとって自然な背骨のS字カーブは必須のものであり、その土台の股関節の機能性は絶対的に必要になってくるのです。家を建てる際に土台が大事であるのと同様に身体を考える際にも土台が大事です。土台がしっかりしてない状態でどんなに腹筋をがんばっても下腹の悩みは解決せず、どんなに背中を鍛えても猫背の根本的解決にはならないのです。
ヨガは股関節周りの筋肉を強化し柔軟性も筋肉同士の協調性も高めていきます。今回注目した大腰筋を中心にゴムのようにしなやかな筋肉を作っていきます。呼吸を深く行うことで肋骨周りの筋肉や背骨周りの筋肉をほぐしながら股関節を動かしていきます。体幹の上部にスペースを作りながら土台を作ることで内臓下垂や猫背なども改善しやすくなります。なにより呼吸を中心とした動きは心地良いため身体が自然とあるべき方向に向かいやすくなります。自然なS字カーブを描いたきれいな背中がつくられていくのです。
アナトミック骨盤ヨガは特に股関節周りの筋肉に強く働きかけます。